高額療養費

医療の高度化などにより、長期の療養や入院・手術などで患者の負担が非常に高額になることがあります。そこで、病院等で支払う自己負担額が一定期間に一定額を超えた場合に、その超えた分を償還払いするのが高額療養費制度です。

原則として、現金給付ですが、事前の申請により所得区分について保険者の認定を受ければ現物給付方式で保険給付が行われます。

高額療養費の支給要件

療養の給付について支払われた一部負担金の額または療養(食事療養及び生活療養を除く。)に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費もしくは家族訪問看護療養費として支給される額に相当する額を控除した額が著しく高額であるときは、その療養の給付またはその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費が支給されます。

高額療養費

高額療養費を支給するための基準は以下の通りです。

  • 同一月ごとに算定します。【例】9月20日から10月5日まで療養を受けたときは、9月20日から9月30日までと10月1日から10月5日までとに分けて計算します。
  • 原則として、同一被保険者または同一被扶養者ごとに算定します。【例】夫婦とも被保険者である場合は別個に計算されます。
  • 同一病院等ごとに算定します。病院、診療所、薬局、指定訪問看護事業者等ごとに算定しますが、次の場合は別個の病院等とみなされます。
    • 同一病院等の歯科と歯科以外の診療科
    • 旧総合病院等の2以上の診療科名を有する保険医療機関の各診療科(ただし、入院患者が他の診療科の療養と併せて受けた場合は、歯科を除き同一の病院等として取り扱う)
    • 同一の病院等であっても入院診療分と通院診療分は、それぞれ別に算定

高額療養費の支給額

被保険者または被扶養者に係る自己負担額が、自己負担限度額(高額療養費算定基準額といいます)を超えるとき、その超えた額が高額療養費として支給されます。高額療養費算定基準額の算出は70歳以上と70歳未満で区切られ、それぞれの算出方法で基準額を算定します。

70歳未満の高額療養費

被保険者および被扶養者の所得区分によって高額療養費算定基準額の算出方法が異なります。所得区分は以下の通りです。

  1. 一般(2.または3.以外の者)
  2. 上位所得者(療養のあった月の標準報酬月額が53万円以上である被保険者またはその被扶養者)
  3. 低所得者(次のいずれかに該当する者)
    • 市町村民税非課税者
    • 生活保護法の規定によるよう保護者であって、高額療養費の支給があれば、保護を必要としなくなる者
区分高額療養費算定基準額
標準報酬月額53万円以上150,000円+(療養費用-500,000円)×1%
標準報酬月額50万円以下80,100円+(療養費用-267,000円)×1%
低所得者35,400円
70歳未満の一般被保険者(3割負担)、外来のみで自己負担額90,000円として計算してみましょう。
計算式は、算定基準額=80,100+(300,000-276,000)×0.01となります。
高額療養費算定基準額は80,340円ですから、高額療養費は90,000-80,340=9,660円となり、自己負担額の1割強(約10.7%)が戻ってくることになります。
世帯合算

同一世帯で同一月内に、被保険者またはその被扶養者に係る自己負担額のそれぞれの額で21,000円以上のものが複数あれば、これらを合算して、高額療養費算定基準額を超えるときにはその超える額が高額療養費として支給されます。

世帯合算は被保険者およびその被扶養者を単位として行われますが、夫婦であってもともに被保険者である場合には、その夫婦間での世帯合算は行われません。

70歳未満の一般被保険者(3割負担)、外来のみで療養に要した費用は100,000円(自己負担額=30,000円)、70歳未満被扶養者(3割負担)、外来のみで療養に要した費用は200,000円(自己負担額=60,000円)として計算してみましょう。
計算式は、算定基準額=80,100+(100,000+200,000-276,000)×0.01となります。
高額療養費算定基準額は80,340円ですから、高額療養費は30,000+60,000-80,340=9,660円となります。
長期高額疾病(特定疾病)

費用が著しく高額な治療を著しく長期間継続しなければならない療養を受けた場合は、次のように高額療養費算定基準額が変わります。

特定疾病高額療養費算定基準額
一般上位所得者低所得者
腎透析治療(人工腎臓を実施している慢性腎不全患者)10,000円20,000円10,000円
第Ⅷ因子障害又は第Ⅸ因子障害の血友病患者10,000円10,000円10,000円
抗ウィルス剤を投与している後天性免疫不全症候群の患者で厚生労働大臣が定める者(血液製剤に起因するHIV感染者)10,000円10,000円10,000円
高額療養費に多数回該当する場合

同一世帯で、療養があった月以前の12ヶ月以内に、高額療養費(長期高額疾病の場合を除く)が支給されている月が3ヶ月以上ある時は、4ヶ月目以降からの自己負担額が次表の高額療養費算定基準額を超える場合、その超えた額が高額療養費として支給されます。

区分高額療養費算定基準額
一般44,400円
上位所得者83,400円
低所得者24,600円

転職等で、所轄の年金事務所が変わっても回数は通算されますが、健康保険組合の被保険者から協会健康保険の被保険者に変わる等、管掌する保険者が変わる場合は通算されません。

70歳以上の高額療養費

後期高齢者医療を受けることができるまでの間(原則として70歳以上75歳未満)の療養に係る自己負担額が著しく高額であるときは、健康保険から高額療養費が支給されます。70歳未満の高額療養費との相違点は、所得区分が低所得者区分が2区分になって計4区分に、高額療養費算定基準額が外来療養と世帯合算の2段階で適用される2点です。

外来療養における高額療養費

被保険者又は被扶養者が同一の月にそれぞれ同一の病院等から受けた療養(外来療養に限る)に係る自己負担額を被保険者又は被扶養者ごとにそれぞれ合算した額が、次表の高額療養費算定基準額を超えるとき、超えた額が高額療養費として支給されます。

区分適用
一般下記のいずれでもない者
一定以上所得者療養の給付または家族療養費の負担割合が3割の者
低所得者Ⅱ次のイまたはロに該当する者
イ.市町村民税非課税者である被保険者又はその被扶養者
ロ.療養のあった月において生活保護法の規定による要保護者であって、当該低所得者Ⅱに係る高額療養費の支給があり、かつ、入院時食事療養費に係る標準負担額の減額措置があれば生活保護法の規定による保護が必要でなくなる者
低所得者Ⅱ次のイまたはロに該当する者
イ.判定基準所得がない被保険者又はその被扶養者
ロ.療養のあった月において生活保護法の規定による要保護者であって、当該低所得者Ⅰに係る高額療養費の支給があり、かつ、入院時食事療養費に係る標準負担額の減額措置があれば生活保護法の規定による保護が必要でなくなる者

外来療養のみの高額療養費算定基準額は次の通りです。

区分高額療養費算定基準額
一般12,000円
一定以上所得者44,400円
低所得者Ⅱ8,000円
低所得者Ⅰ

70歳以上外来療養の場合は、金額にかかわらず異なる病院等で受けた療養に係る自己負担額も合算して高額療養費算定基準額を適用します。

世帯合算

同一世帯で同一月内に、被保険者またはその被扶養者に係る自己負担額のうち次の1.または2.の合算額が、次表の高額療養費算定基準額を超えるときにはその超える額が高額療養費として支給されます。

  1. 個人単位で外来療養に係る高額療養費を適用した後、なお残る自己負担額を世帯合算した額
  2. 同一の月にそれぞれ同一の病院等から受けた入院療養等に係る自己負担分を世帯合算した額
区分高額療養費算定基準額
一般44,400円
一定以上所得者80,100円+(療養に要した費用-267,000円)×1%
低所得者Ⅱ24,600円
低所得者Ⅰ15,000円

70歳以上の場合は、70歳未満のような21,000円以上という合算対象基準額はありません。

具体的な計算例

計算の流れは下図のようになります。まず、被保険者、被扶養者それぞれの外来療養での自己負担額が高額療養費支給要件を満たしているかどうかを見ます。次に、高額療養費を控除した自己負担額と入院療養での自己負担額とを合算し、高額療養費算定基準額を超えているかどうかを見ます。そして、各々算出された額を合計したものが総支給額となります。

70歳以上世帯合算

70歳以上一般被保険者、A病院外来の自己負担額=20,000円、70歳以上被扶養者B病院外来の自己負担額=10,000円、C病院入院の自己負担額=50,000円の条件で計算してみましょう。
1.各個人の外来自己負担額から高額療養費を算出します。
被保険者 20,000円-12,000円=8,000円・・・・(a)
被扶養者 10,000円<12,000円なので支給なし
2.なお残る自己負担額と入院療養での自己負担額を世帯合算します。
被保険者12,000円+被扶養者10,000円+入院50,000円=72,000円
72,000円-44,400円=27,600円・・・・(b)
3.支給総額を算出します。
8,000円(a)+27,600円(b)=35,600円
長期高額疾病

70歳未満と同様です。

高額療養費に多数回該当する場合

低所得者Ⅱ,Ⅰ以外の所得区分の者は70歳未満と同様に多数回該当(算定基準額=44,400円)が適用されますが、外来療養の高額療養費しか受けていない場合は、回数に算入されません。

高額介護合算療養費

医療保険については高額療養費制度が、介護保険については高額介護サービス費制度がありましたが、平成20年4月からそれらを統合した高額介護合算療養費が施行されました。

8月から翌年7月までの1年間における健康保険の自己負担額(高額療養費が支給される場合は支給額を控除した額)介護保険の自己負担額(高額介護サービス費が支給される場合は支給額を控除した額)および介護予防サービス利用者負担額(高額介護予防サービス費が支給される場合は支給額を控除した額)とを合算した額が、自己負担限度額を超えたときに高額介護合算療養費が支給されます。

被保険者等の区分自己負担限度額(年間)
70歳未満70歳以上
一般670,000円620,000円
上位所得者、一定以上所得者1,260,000円670,000円
市町村民税非課税者等340,000円310,000円
判定基準所得のない者190,000円
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